天ヶ瀬ダム (宇治市)  
Amagase Dam
天ヶ瀬ダム 天ヶ瀬ダム
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天ヶ瀬ダム




宇治川


旧宇治川電気志津川発電所

 天ヶ瀬ダム(あまがせ-だむ)は、淀川水系淀川(宇治川)の最上流にある。
 多目的ダムとして洪水調節・発電・利水補給(上水)の役割を担う。かつて、渓流沿いに観光用の汽船・遊覧鉄道も運行されていた。
◆歴史年表 近代、1920年、宇治川電気による宇治川沿いへの志津川(大峯)ダム(堰堤)建設が行われる。その際に、資材運搬用のトロッコ(奈良線-ダム建設現場、9.6km)が敷設された。
 1924年、志津川ダムが竣工した。旧宇治川電気志津川発電所が建設される。
  1926年、汽船「宇治川ライン」(外畑-大峰ダム間)が開業している。
 現代、1947年、天ヶ瀬ダムの建設計画が起こる。淀川の洪水を防ぎ、近畿地方への電力づくりを目的にした。
 1950年、10月11日、観光用の「おとぎ電車(列車)」(天ヶ瀬-堰堤)が開業した。
 1953年、9月25日、台風13号により淀川に大洪水が起こる。宇治川の堤防も壊れ大被害を受けた。おとぎ電車は運行停止になる。
 1954年、「淀川水系改修基本計画」が決定される。4月1日、おとぎ電車は運行再開した。
 1955年、ダムサイトの地質調査が始まる。
 1957年、建設事業が始まる。天ヶ瀬ダム工事事務所が開設される。
 1959年、「天ヶ瀬ダムの建設に関する基本計画」が発表された。ダムの建設工事が始まる。
 1960年、5月31日、おとぎ列車が廃止された。
 1962年、天ヶ瀬発電所の増加・上下水道の追加が、変更計画で発表される。
 1964年、天ヶ瀬ダムが完成し、天ヶ瀬発電所も発電開始する。旧宇治川電気志津川発電所は廃止される。
 1965年、天ヶ瀬ダム管理所ができる。
 1970年、喜撰山発電所(宇治川支流寒谷川)が発電開始した。
 1975年、「天ヶ瀬ダム再開発事業」の予備調査が始まる。
 1989年、再開発事業が始まる。
 2022年、再開発事業が完成した。
 2023年、再開発事業の貯水池運用効率化により、水道用水を取水(1日当51,840㎥、17万人分)供給が開始される。4月1日、ダム左岸側にトンネル式放流設備(617m)が整備され、放流能力1.7倍に強化された。
◆志津川ダム 近代、1924年に志津川(しづがわ)ダムは、天ヶ瀬ダムに先行して竣工した。別名は大峰(おおみね)ダムといわれた。現代、1964年に天ヶ瀬ダムの完成に伴い廃止されている。 
 越流型曲線重力式コンクリートダム。堤高: 35.2m、堤頂長: 65.45m、堤体積: 33,000㎥。水門設備: 洪水吐(クレストゲート、ダムの堤頂部に設置されるゲート、想定以上の洪水時にダム天端からの越流を防ぐための非常用ゲートとして使用される)、テンターゲート(別名ラジアルゲート、表面が円弧状でその曲線の中心を軸とし回転し開閉するゲート)、排砂門: 1門。
 取水先に設けられていたテンターゲートは、大井発電所(岐阜県)の大井ダムとともに、ダム設置のテンターゲートとしては日本で最初期に完成し運用された。
◆旧志津川発電所 天ヶ瀬ダムの宇治川下流右岸に、旧宇治川電気志津川発電所の煉瓦造の建物が残る。
 近代、1924年に建設され、当時としては画期的なダム式発電所だった。現代、1964年に、天ヶ瀬ダムの建設により廃止された。
 2008年に、土木学会の「日本の近代土木遺産-現存する重要な土木構造物2000選 」に選定されている。
 煉瓦建造物(ろく屋根)。
◆天ヶ瀬ダム 天ヶ瀬ダム(左岸は宇治市槇島町六石山、右岸は宇治市槇島町槇尾山)は、現代、1964年に淀川水系淀川(宇治川)に完成した。
 それに先立ち、1953年9月の台風13号で宇治川沿岸地帯に大洪水があった。宇治川には、滋賀県全域の流水のすべてが瀬田川を通じて流れ込んでいた。流量が大きいため、京都府南部の巨椋池干拓地周辺でも水害による被災が頻発していた。この水害を契機に、宇治川の治水事業が進展する。
 膠着状態だったダム建設計画が進められ、宇治川防災ダム・多目的ダムとして計画された。1964年の天ヶ瀬ダムの建設のほか、南郷洗堰の移設・瀬田川浚渫などにより流量調節が行われた。
 洪水調節機能としては、ダム地点の計画高水流量1,360㎥/sを840㎥/sに調節した。宇治川氾濫を防ぎ、淀川本川のピーク時に160㎥/s に調節した。発電は、天ヶ瀬発電所で最大発電力9万2,000kwの発電(人口10 万人分)、喜撰山発電所は、天ヶ瀬ダム湖を下部調節池とし、最大46万6,000kw の揚水式発電(人口50万人分)を行っている。利水補給(上水)としては、給水区域(宇治市・城陽市・八幡市・久御山町)に、最大 1,104㎥/s、35万人に上水を供給している。
 ダムの型式はドーム型アーチ式コンクリートダム、トンネル式放流設備になる。ダム湖の貯水水圧を両側の岩盤で支え、ダム壁を築いている。なお、ダム湖(貯水池)は鳳凰(ほうおう)湖と呼ばれている。瀬田川・宇治川の峡谷は16kmにわたる。
 ▪流域面積: 天ヶ瀬ダム流域: 352k㎡、琵琶湖流域: 3,848k㎡(内湖面積680k㎡)、全流域(集水面積): 4,200k㎡、 ▪堤頂長: 254m、堤高: 73m、▪トンネル延長: 617m、トンネル径: 幅23m×高26m、▪体積: ダム本体: 121,500㎥、副ダム水たたき: 42,500㎥、計: 164,000㎥、▪地質 砂岩・粘板岩、▪天ヶ瀬ダム主ゲート(圧着式高圧ローラゲート) 径間: 3.42m×有効高: 4.56m×3門、放流量: 1,100㎥/s(能力)、▪天ヶ瀬ダム非常用放流ゲート(ラジアルゲート) 径間: 10.0m×有効高: 4.357m×4門、放流量: 680㎥/s(能力)、▪天ヶ瀬ダムコンジット予備ゲート(高圧キャタピラゲート) 径間: 5.13m×有効高: 7.395m×3門、▪トンネル式放流設備主ゲート(高圧ラジアルゲート) 径間: 3.6m×扉高4.9m×2門、放流量: 600㎥/s(計画放流量)、▪トンネル式放流設備副ゲート(高圧スライドゲート) 径間: 3.6m×扉高: 5.9m×2門、▪トンネル式放流設備修理用ゲート(高圧スライドゲート) 径間10.54m×扉高12.3m×1門、▪トンネル式放流設備、小容量放流設備 主バルブ(ジェットフローゲート) Φ1300mm×1門、放流量: 25㎥/s(最大放流量)、▪トンネル式放流設備小容量放流設備 副バルブ(高圧スライドゲート) Φ1300mm×1門、▪湛水面積: 1.88k㎡、▪平常時最高貯水位 : O.P.78.5m、▪洪水時最高水位: O.P.78.5m、▪洪水貯留準備水位: O.P.72.0m(6月16日-10月15日)、▪最低水位: O.P.58.0m、▪予備放流水位: O.P.58.0m、▪利用水深: 20.5m、▪総貯水量: 26,280,000㎥(甲子園球場約50杯分)、▪有効貯水容量: 20,000,000㎥。
◆天ヶ瀬発電所 現代、1964年に天ヶ瀬発電所(宇治市宇治金井戸)は完成し、発電開始した。
 発電方式: ダム式、取水口所在地: 宇治市宇治槇島町六石、許可出力: 最大92,000kW、有効落差: 最大57.1m、使用水量: 最大186.14㎥/s。
◆おとぎ電車 近代、1920年に水力発電用に志津川(大峯)ダム(堰堤)工事が始まる。それに伴い、宇治川電気により宇治川右岸沿いに、資材運搬用に電化されたトロッコ(奈良線-ダム建設現場、9.6km、軌間610mm、直流600V)が敷設される。1924年にダム・志津川発電所が完成している。その後、天ヶ瀬以西の線路は撤去される。ダム-発電所間(3.6km)は従業員・資材の運搬用として存続された
  現代、1950年10月11日に、旧トロッコ軌道を転用する形で、観光用の遊覧鉄道「おとぎ電車(列車)」が開業する。当初は、電気機関車が柿色の装飾したテント型客車を牽引していた。停車駅は志津川発電所側に発着点の「天ヶ瀬停留所」があり、現在の旧志津川発電所付近になる。渓流沿いに右岸を走り、トンネルを抜け鉄橋を渡り、路線の中央付近にすれ違い線も設けられていた。上流側の大峰ダム付近には、「堰堤停留所」があり、「宇治川遊園地」も整備され人気を博した。電車はこの「遊園地内を走る遊具」として位置づけられていた。運行は4月-11月、9時半-15時半、運賃1乗車40円(小人20円)、後に50円になった。
 線路・電気設備は日本発送電(後の関西電力)が所有し、運営は京阪電気鉄道(京阪)が担った。車両は、凸型車体の電気機関車(米国ウエスチングハウス製、25HP×2)・ 客車7両編成(最高9両編成)で時速15km/hで走行した。1954年からは屋根付きのタルゴ形客車(スペインの山岳列車、車両と車両の間に車輪が付く)の「むかで号」も運行した。
 1953年9月25日の台風13号により、淀川・宇治川に大洪水が起きた。電車線路の冠水・車両流失などもあり運行停止になる。1955年3月16日に、電車は関西電力から京阪電鉄に880万円で譲渡されている。1958年には、1日28往復、最高6000人の乗降があり、年間16万人を数えたという。 1960年5月31日に電車は廃止された。 1964年の天ヶ瀬ダム建設に伴い、旧線路の大半は水底に沈んだ。


年号は原則として西暦を、近代以前の月日は旧暦を使用しています。
参考文献・資料 ウェブサイト「淀川ダム統合管理事務所」、ウェブサイト「土木学会」、ウェブサイト「天ヶ瀬ダム ものしりブック-河川財団」、ウェブサイト「水力ドットコム」、ウェブサイト「日本ダム協会」、ウェブサイト「国土交通省 近畿地方整備局 紀の川ダム統合管理事務所」、ウェブサイト「京都新聞 2018年11月10日」、ウェブサイト「宇治の『おとぎ電車』- Kyoto Love.Kyoto」、ウェブサイト「宇治市政だより 2007年1月1日」、ウェブサイト「コトバンク」


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